そもそも「移住の成功」そして「失敗」って?
“移住ブーム”の明日を語る Part2

2017.7.1

移住者の声を聞き取ってきたふたりのメディア代表者との鼎談シリーズPart2。Part1「移住者たちの声から浮かぶ地方の現実」では、移住生活の様々な“リアル”を語ってもらったが、Part2では、そのような現実を乗り越えるためのアイディアや、都会でも田舎でもない「地方都市」「郊外」の可能性などについてもさらに踏み込んで話を伺った。
(場所:東京・西荻の、”食”をテーマにしたコミュニティースペース「okatteにしおぎ」)

話し手
鳥井とりい 弘文ひろふみ
北海道函館市生まれ。 大学卒業後、中国・北京へ渡り日系ITベンチャー企業に勤務。 帰国後は、新しい時代の生き方やライフスタイルを提案するブログ「隠居系男子」を運営開始。半年で月間25万PVを達成し、現在はBLOGOSとFashionsnap.comにも転載中。 2014年9月に起業し、株式会社Waseiを設立。これからの暮らしを考えるウェブメディア「灯台もと暮らし」を運営している。
阿部あべ 光平こうへい
北海道函館市生まれ。大学卒業を機に、5大陸を巡る地球一周の旅に出発。帰国後、フリーライターとして旅行誌等で執筆活動を始める。現在は雑誌やウェブ媒体で、旅行、音楽、社会問題など様々なジャンルの取材・記事作成を行っている。東京で子育てをする中で、移住について真剣に考えるようになり、仲間と共に『IN&OUT –ハコダテとヒト-』を立ち上げた。
聞き手
栗原くりはら 大介だいすけ
東京都練馬区生まれ。rajomon編集部。大学卒業後、テレビ番組制作を経たのち、2002年(株)メディア・ゲート・ジャパン設立。映像コンテンツのプロデュースや、企業・政治家等のメディア戦略に携わる。2016年サシミメディアラボ(株)設立。同年7月から、東京と長野県富士見町を行き来する二拠点居住を始める。富士見町の地域メディア「sen-nin」を主宰している。

いま、「30万人都市がいちばん多くて取り残されやすい」

栗原Part1では、移住者が増えてきた地域の現実について興味深いお話を色々と伺ったんですが、海士町とか神山町とか、過疎地域の事例が多かったですよね。こういった地域ではなくて、例えばおふたりの地元の函館市とか、地方都市や郊外の現実はどうでしょうか? 人口が多い分だけ、東京と同じくらいのお金を稼げるとか、同じくらいの文化レベルというか、そういった可能性があるのかな。例えば蔦屋書店の代官山に次ぐ二号店は函館にできましたよね。蔦屋書店が地域のために良いかどうかの是非は別としても、それなりのマーケットがある町だからこそああいうものが出店できるのは事実なわけです。そもそもなんで函館に出店したんだろう?

阿部函館ってそういう新しいことをまず試す地域らしいです。何年後かの日本の・・・

栗原縮図?

阿部そうそう。

栗原静岡県もそうですよね。

鳥井そうです。静岡と同じように函館も、この土地で売れれば売れていくだろうと考えられて、よくテストマーケに使われていると聞きます。

栗原つまり中核都市としてすごく面白いサンプルになりそうな場所だと。斬新な試みが色々と生まれていることを期待しちゃいますね。

阿部もちろんそういった面はあるんですけど、ただ、30万人弱の函館くらいの規模の町って、行政がとても遠いんですよ。

栗原ああ、それはそうでしょうね。

函館市街:mrcmos / Shutterstock.com

阿部僕は親が転勤族で、子供の頃に長万部という小さな町に住んでいたことがあったんですけど、役場の人とか町長さんでも、そこら辺ですれ違って話をするような距離感だし、普通の町民たちも、「この町をもっとああしたら、こうしたら」ってしょっちゅう話をしてたんです。でも、函館だとそういうのはほとんどないですね。あれくらいの大きな規模だと、行政と一緒に物事を動かしていこうという気持ちになることは難しいですね。

鳥井今、地方創生の文脈で1万人以下の町の方が盛り上がっているのは、そういうところに理由があると思っています。「住民自治にしっかりと参加したいから移住する」という方々もいるくらいです。行政と自分の生活があまりに離れていて、選挙するのも地域活動に参加するのも意味がよくわからないような地域から、「手触り」のある地域へと。函館くらいの規模だと、何かしら地域のためにと思っても、できることが少ないですよね。

阿部個人レベルではあまりない気がしますね。

鳥井やっぱり規模が大きいと、予算が必要だったり、何かしら大きなことを仕掛けないといけなくなってしまうので。30万人規模くらいのロードサイド都市が、今後どうなっていくか気になってます。日本にいちばん多くて、取り残されやすい地域。

栗原なるほど。しかしまさに今「いちばん多く」と仰ったように、そういった地域がどうなるかが、かなり重要とも言えるわけですね。僕が個人的に馴染みのある町は甲府市で、人口20万くらい。状況が似ているような気がします。

鳥井そうですね。甲府とかまさにそんな状況ですね。

阿部函館市の職員の方と喋っててよく聞くのは、「小さな町はもう後がないから思い切った勝負ができるけど、函館市だと上の世代はリスクを負わなくても定年まで逃げきれちゃうので、事なかれ主義の人が少なくない」といった話です。やる気と意志を持っている若い役人たちが主導権を握るのはまだ先だし・・・。

栗原僕が移住した富士見町は人口1万4000人くらいで、町長との距離も近いんですよ。これはこの前の出来事なんですが・・・。町長が、国の補助金を使って駅前に大きな施設を作るという計画を立ち上げたんです。で、公聴会をやるという話になった。そしたらバッと地元の人たちが来て、「こんな民業圧迫のずさんな計画はだめだ」って町長を責め立て始めて(笑)。その後、結局その案は取り下げることになった。そんなことがありました。この政策についての是非には触れませんが、このプロセス自体が、健全な民主主義って本来はこうなんじゃないかな、と感じました。僕はずっと東京だったので、都会は行政はさらに遠いですからね。

鳥井確かに確かに。

阿部住民と行政の乖離は、規模が大きくなればなるほど、ちょっとどうしようもない面はありますよね。

地方移住がユートピアに見える理由ワケ

栗原話は元に戻りますが、Iターン移住者だと、どういう人が多い印象ですか?

鳥井大ざっぱに分けると3パターンあると思っています。ひとつめは、家族ができた、子どもができたというライフステージの変化にともなって、東京だと過ごしづらいから移住するというケース。ふたつめは、自分は本当に都会でやりたいことがあるのか、資本主義の中で勝ち残っていくことが正しいのか、そういった既存の社会システムに疑問を持った方々。20代〜30代の若い人に多い印象です。あと最後のパターン。これが面白いんですが、僕の知り合いで、発酵デザイナーの小倉ヒラクさんという方がいるのですが、彼は山梨県に一昨年移住したんです。その理由が「山梨の方が菌を育てたいから」でした。東京でも菌の培養は可能ですけど、田舎のほうが断然育ちやすいと言うんです。寒暖の差が激しいし、水も土も空気も都会とは全く違う。つまり、もともと手に職のある方々が、その職を極めるために自然環境を求めて移住しているケースが増えていますね。

阿部ふたつめの、資本主義社会への疑問とかイケダハヤトさんに影響されて、という移住には、世の中の働き方が多様化しているという背景がありますよね。

鳥井それはあると思います。

栗原「資本主義社会への疑問」という文脈がベースにあり、そのうえで、3つめの方々の成功物語を読むと、「私にもできそう、やってみよう」というドライブにはなりますね。

鳥井そうですね。結果、ただ行って生活するだけじゃなくて、地に根を張った事業を立ち上げてる方々が増えている。

阿部確かになぁ。本当にそう思います。

「損切り」できるライトさが重要

栗原例えば、一人暮らしをして平日仕事していたら、職にもよりますが、一日誰とも話さない日があっても不思議じゃないですよね。でも、都会にいるとそれをあまり意識せずに生活できる。ところが、同じことを田舎でやると結構つらいんですよ。僕は東京と長野の二拠点生活なので、そのギャップとつらさを噛み締めているわけだけど(笑)。

鳥井僕はそれを「東京の匿名性」と呼んでいます。東京は地域コミュニティがない分、一歩街の中に紛れ込めば、誰も自分のことを知らない匿名中に浸れるし、それが心地よかったりする。僕もよく「なんで地方移住しないの?」と聞かれるんですけど、匿名性がなくなると結構窮屈だなと感じるから、東京に住み続けています。さらに、最近は東京でも匿名性を保ちながら、地方のようなコミュニティの心地よさに浸かれる環境も増えてきていますよね。

栗原今日集まったokatteにしおぎなんて、その典型ですよね。

鳥井そうですね。ある種「東京の田舎化」のようなものが進んでいる。中央線沿線は特にそうですけど、町ごとに小さいコミュニティがどんどん生まれて、田舎のコミュニティの疑似体験ができる場所が増えてきた。週末はそんな小さなコミュニティに浸りつつ、平日は匿名性のなかにいる、という若者は多いんじゃないでしょうか。 そして、「匿名性欲求」よりも「コミュニティ欲求」が強くなっていくと、地方移住を決断するのかなと。311が移住のきっかけだったと語る方が多いんです。社会への強い危機感が生じた時に、匿名性欲求よりコミュニティ欲求が上回って移住を決めた方も多いということなのかもしれません。

西荻窪駅と中央線:rajomon

栗原なるほど。とはいえ、いざ移住してみると、先に話したような田舎のつらさもあるわけですよね。今まで多くの移住者を取材してきて、これは失敗なんじゃないかって話もありますか?

阿部今はうまくいっている人でも、最初は大変だったよという話はよく聞きます。例えば、地方移住者には、古民家を改装して住みたいという人もいる。買うまでは屋根や床を開けられないから、思い切って買ってしまった。で、購入後に開けてみたら、これは改修なんて無理だよ、建て直したほうが安くつくよ、と言われてしまったと。そういうケースは何件か聞いたことがありますね。

栗原空き家はたくさんあるけど、うまくフィットする住環境が見つからないという話はたしかによく聞きますね。これはもう試行錯誤してやっていくしかないですよね。

鳥井あらためて思うのが、「地方移住の成功」ってなんだろうということです。いい家に住めれば成功なのか、稼げれば成功なのか、地域コミュニティの中にしっかり浸っていれば成功なのか。

阿部収入が少なくなっても、生活の満足度が高いならそれは成功かもしれないしね。

栗原移住したけど合わなくて戻ってきちゃった人もいました?

阿部ずっと東京と函館を行ったり来たりしてる人もいますよ。最近は、今回が3回目の函館生活で、これから東京に引っ越すという女性に会いました。

栗原そういうケースはいいですよね。むしろ「一回で終わり」っていう固定観念がよくないのか。別にフラフラしたっていいじゃん、というメンタリティ。

阿部そうそう。最期の土地を決めに行くわけじゃないですからね。

栗原「上手くいかなかったから、また東京でも別の地方でも行ってみよう」というトライアンドエラーを肯定的に考えられる人が移住に向いているのかもしれませんね。

鳥井本当にそうだと思います。海士町に行ったときに、20代後半くらいのデザイナーの女性から、「何で東京から海士町へ行くのが移住で、海士町から東京へ行くのは引っ越しって呼ぶの?」と言われて、本当にそのとおりだなと思いました。今はたまたま海士町が肌に合うから海士町にいるだけで、また東京に戻るかもしれないし、違う地域に行くかもしれない。「移住して骨埋めてくれ」とか、「また出て行くんじゃないか」と周りから煽られるのは正直辛いっておっしゃっていました。

阿部別に何回場所を変えても良いわけだし。

鳥井そういう意味では、責任感が強い人の方が辛そうに見える。「この地域に移住したからからには、この地域のコミュニティに馴染まなければいけない」「この土地でなにか事業を作らなきゃいけない」・・・それでうまくいかなくても、「まだまだやれることはあるはずだ」と、損切りをせず2年3年ふんばっている方もいます。

栗原「損切り」って、いい言葉ですね。

鳥井そのくらいライトな人が増えた方が、その地域にとってもいいと思うんですよね。というのも、移住ってどうしても一箇所にしか行けないので、一箇所だけの移住者を各地域が取り合ったら、ゼロサム・ゲームというか、どこかの地域が必ず不幸を見る。でも二拠点居住とか三拠点居住、あるいは最近よく言う「関係人口」という、住まなくてもその土地を普段から気にかけてくれている人を増やすという方法もある。いろんな地域に関わりがある人が増えていったほうが地域にとっては生き残れる可能性が高くなります。0か1かで、移住者を取りに行こうとするのが一番良くない気がしますね。

“ブーム”の熱狂が落ち着いた先に

阿部前に鳥井さんと一緒にイベントをやった時に、函館市役所の方も来てくれて、その時、函館の事例として「撤退戦」というキーワードが出たんです。函館は雪が降るので、行政で雪かきをしなきゃいけないんですよ。すごく辺鄙なところに一世帯だけおばあさんが住んでいたとしても、そこへも行かなきゃいけない。そこを縮小できれば予算も削減できるけど、行政サービスとしては省けない。かといって、街なかに住んでくださいというのも難しい。だからこれからは撤退戦というのはキーワードになるんじゃないかなという話がありました。

鳥井あれ、すごく印象的でしたよね。地方創生、地方創生といって、町を大きく拡大していく人材が求められているかと思いきや、各地域で求められているのは、どこで撤退するかという撤退ラインを引ける人・・・実際そういう人材が必要になってくる。

栗原NHKスペシャルの「縮小ニッポン」も話題になりましたね。地方移住や地域おこしがブームとはいえ、マクロの傾向としてはやはりそちらの方が深刻です。そんな現実のなか、このブームはいつまで続くのか・・・。

阿部今ようやくブームが落ち着きはじめて、さっきの「撤退戦」的な文脈も含めて冷静に考えるタイミングに来てるんじゃないですか。

鳥井ここ数年の時代の潮流を俯瞰すると、311前、2007年のブログブーム等と一緒のタイミングで、NPOがいっぱいできたじゃないですか。あの時はみんな「社会を変えてやる」という意識が強かった気がするんです。しかし、311でその機運は下火になり、そこからカルチャー文化が大きくなったように感じます。アイドルとかアニメとか。社会は自分たちが動いたところでどうせ変わらないと。それからまた変化して、ここ2、3年で何が起きてるかというと、「自分のとなりを幸せにしよう、自分のとなりから変えていこう」みたいな文脈が出てきた。

栗原佐々木俊尚さんが最近出した本のキーワードが、これからは「上へ」でも「外へ」でもなく「ゆるゆると、横へ」だったからなぁ。

鳥井ここ数年のそういった文脈とマッチしやすかったのが、地域コミュニティくらいのサイズ感だということだと思うんです。

栗原昔の「青年海外協力隊」が、まるまる今は「地域おこし協力隊」とう感覚ですからね。

鳥井そうですね。「世界を変えにいこう」じゃなくて、「自分のとなりの人を幸せにしよう」というところに若い人たちの欲求が移り変わってきている。そういう文脈でいうと、この地方ブームはまだまだ続くんじゃないですかね。

阿部うんうん。移住という形に限らず、「自分の足元から暮らしを考える」という広い文脈では、続くんでしょうね。

栗原働き方についての議論もそうですよね。自分らしい働き方をしよう、とか。働くとは何か、みたいな。

阿部ダウンシフトという考え方も、地方移住との共通点がありますよね。

鳥井そうですね。ただ、個人的にはそれだけだと、ちょっとつまらないなとも思いますけどね。同時にもう少しデカいことをぶち立ててる人が同時に存在している世の中の方が、もっと面白いと思います。

栗原そういった人たちの取材は、おふたりのメディアでこれから積極的にとりあげてください(笑)。もちろんrajomonでも紹介していきたいと思います。今日はおふたりとも、どうもありがとうございました。

企画:栗原大介、阿部光平
文:大野沙亜耶、栗原大介
撮影:安川慎也